スタートアップの上場(IPO)とは?準備から実現までの流れと成功のポイント

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/25

スタートアップの上場を目指すなら、知っておくべき現実があります

「いつかは上場(IPO)を」──多くのスタートアップ経営者が描く目標ですが、実現までの道のりは決して平坦ではありません。準備期間は最低3〜5年、費用も相応にかかり、上場後も経営の自由度が低下するなど、メリットだけでなくデメリットも存在します。

この記事では、スタートアップのIPOについて、準備の流れから成功のポイント、そしてM&Aとの比較まで、実務視点で解説します。IPOを検討している経営者・経営幹部の方が、現実的な判断ができるようになることを目指しています。

この記事のポイント:

  • スタートアップの上場確率は約7%と言われており、決して容易ではない
  • IPO準備には最低3〜5年、年間上場料48万〜456万円などの費用がかかる
  • 2025年から東証グロース市場の維持基準が厳格化(5年後に時価総額100億円以上)
  • 上場のメリット(資金調達力・知名度向上)とデメリット(経営の自由度低下)を理解する
  • M&Aも有力なエグジット手段として検討する価値がある

1. スタートアップにとってのIPO(上場)とは

(1) IPOの定義とスタートアップのエグジット戦略

IPO(Initial Public Offering) とは、未上場企業が株式を一般投資家に公募し、証券取引所に上場することです。スタートアップにとっては、創業者や初期投資家が投資リターンを得る「エグジット(出口戦略)」の一つとして位置づけられます。

スタートアップの主なエグジット手段:

  • IPO(上場): 証券取引所に上場し、株式を公開市場で売却
  • M&A(合併・買収): 他社に買収されることで株式を売却

どちらを選ぶかは、事業の成長フェーズや経営者の目標によって異なります。IPOは資金調達力と知名度の向上が期待できる一方、準備期間と費用が必要です。

(2) スタートアップの上場確率|約7%の現実

スタートアップが上場を達成する確率は、一般的に約7%程度と言われています(参考:ガイアックス社レポートより)。

2024年のIPO動向(帝国データバンク調査):

  • 2024年のIPO企業数: 86社
  • うちスタートアップ: 35社(40.7%)

上場を目指すスタートアップは多いものの、実際に達成できる企業は限られています。だからこそ、IPOを目指すなら計画的な準備と現実的な判断が求められます。

2. IPOのメリット・デメリット|経営の自由度と資金調達力のトレードオフ

(1) メリット|資金調達力・知名度・信用力の向上

IPOの主なメリット:

メリット 内容
資金調達力の向上 株式公開により大規模な資金調達が可能に
知名度・信用力の向上 上場企業としての社会的信用が得られる
採用力の強化 上場企業への転職を志望する人材を獲得しやすい
ストックオプションの活用 従業員へのインセンティブ設計が柔軟に
創業者・投資家のエグジット 株式売却により投資リターンを実現

上場によって得られる知名度と信用力は、BtoB企業にとって特に大きなメリットです。大手企業との取引において、上場企業であることが信頼の証となる場合があります。

(2) デメリット|費用負担・経営の自由度低下・株主対応

IPOの主なデメリット:

デメリット 内容
費用負担が大きい 年間上場料48万〜456万円、監査報酬、コンサル費用など
経営の自由度低下 株主への説明責任が発生し、意思決定の迅速さが損なわれることも
株主対応の負担 株主総会、IR活動、四半期開示などの対応が必要
短期業績へのプレッシャー 四半期ごとの業績開示により、短期的な成果を求められる傾向
情報開示の義務 経営情報・財務情報を広く公開する義務が発生

「上場すれば万事解決」ではありません。上場後の負担を理解した上で、本当にIPOが自社に適しているかを判断する必要があります。

3. IPO準備の流れ|N-3期から上場までのスケジュール

IPO準備は一般的に「N-3期」から始まり、上場申請を行う「N期」まで最低3〜5年かかると言われています。

(1) N-3期|監査法人との契約とショートレビュー

N-3期の主なタスク:

  • 監査法人との契約
  • ショートレビュー(事前審査)の実施
  • 課題の洗い出しと改善計画の策定

ショートレビュー とは、監査法人がIPOに向けた企業の課題を事前に調査することです。財務体制、内部統制、コンプライアンスなどの観点から現状を評価し、上場に向けた改善点を明らかにします。

この段階で課題を把握し、計画的に解決していくことがIPO成功の鍵となります。

(2) N-2期|課題の顕在化と解決(計画後ろ倒しのリスク)

N-2期の主なタスク:

  • 監査法人による予備調査(監査に近い形での検証)
  • 内部管理体制の整備
  • 主幹事証券会社の選定

N-2期は、企業の課題が顕在化しやすい時期です。内部統制の不備やコンプライアンス上の問題が発覚し、計画が後ろ倒しになるケースも少なくありません。

よくある課題:

  • 関連当事者取引の整理
  • 経理体制・決算早期化の遅れ
  • 労務管理(残業管理、ハラスメント対策など)の不備

(3) N-1期〜N期|申請書類の準備と審査

N-1期の主なタスク:

  • 申請書類(I・IIの部)の作成開始
  • 取引所への事前相談
  • 内部統制の本格運用

N期の主なタスク:

  • 上場申請書類の提出
  • 取引所審査への対応
  • 上場承認・上場

上場申請から承認までは通常2〜3ヶ月程度かかります。審査では、形式基準(定量的条件)と実質基準(企業統治・コンプライアンス等)の両方がチェックされます。

4. 東証グロース市場の上場基準|2025年の最新基準と注意点

スタートアップの上場先として最も多く選ばれているのが「東証グロース市場」です。2022年に旧マザーズとJASDAQを統合して誕生した市場で、高い成長可能性を有する企業を対象としています。

(1) 形式基準|株主数・時価総額などの定量的条件

東証グロース市場の主な形式基準:

項目 基準
株主数 150人以上
流通株式数 1,000単位以上
流通株式時価総額 5億円以上
事業継続年数 1年以上

形式基準は定量的な条件であり、数値で判定されます。

(2) 実質基準|企業統治・コンプライアンスの審査

形式基準をクリアしても、実質基準の審査を通過しなければ上場はできません。

主な実質基準:

  • 企業経営の健全性
  • 企業内容等の開示の適正性
  • 企業経営の独立性
  • 事業計画の合理性
  • コーポレートガバナンスの適切性

(3) 2025年の維持基準変更|5年後に時価総額100億円以上が必須

2025年から東証グロース市場の維持基準が厳格化されました。

新しい維持基準:

  • 上場5年後に時価総額100億円以上が必須
  • 達成できない場合は、上場廃止またはスタンダード市場への移行を検討

現状の課題: 現在のグロース市場上場企業の約70%が時価総額100億円未満と言われています。新基準では、多くの企業が維持基準を満たせない可能性があり、上場を目指す企業はより高い成長目標を設定する必要があります。

(参考:Startup JAM「【2025年最新データ】東証グロースとは?」2025年)

5. IPO成功のポイント|体制構築と課題の早期解決

(1) 管理体制の構築|CFO・内部統制・監査対応

IPOを成功させるには、早期に管理体制を構築することが重要です。

構築すべき体制:

  • CFO(最高財務責任者)の採用: 財務・IR・資金調達の責任者
  • 経理体制の整備: 決算の早期化、月次決算の実現
  • 内部統制: J-SOX対応を見据えた業務フローの整備
  • 監査対応: 監査法人との円滑なコミュニケーション

これらの体制構築には時間がかかるため、N-3期以前から着手することが推奨されます。

(2) 成功事例|タイミー(時価総額1,500億円超)の大型上場

2024年7月、スキマバイトサービスを提供するタイミー株式会社が東証グロース市場に上場し、時価総額1,500億円超を達成しました。

タイミーの成功要因(報道より):

  • 明確な社会課題の解決(スキマ時間の活用)
  • 急成長する市場でのポジション確立
  • 計画的なIPO準備と体制構築

(参考:フォースタートアップス「タイミー×フォースタートアップスの挑戦」2024年)

(3) IPO準備の期間と費用|最低3〜5年、年間上場料48万〜456万円

IPO準備の主な費用:

費目 目安
年間上場料 48万〜456万円(時価総額による)
監査報酬 年間1,000万〜3,000万円程度
主幹事証券会社への手数料 調達額の数%程度
コンサルティング費用 年間500万〜1,000万円程度

※金額は目安です。企業規模や状況により大きく異なります。

IPO準備には相応の投資が必要です。費用対効果を検討した上で、IPOを目指すかどうかを判断してください。

6. まとめ:IPOかM&Aか、エグジット戦略の選択

スタートアップの上場(IPO)は、資金調達力と知名度の向上という大きなメリットがある一方、準備期間・費用・上場後の負担も無視できません。

IPOとM&Aの比較:

観点 IPO M&A
準備期間 3〜5年以上 数ヶ月〜1年程度
経営権 創業者が維持 買収企業に移転
資金調達 上場後も継続的に可能 売却時に一括
経営の自由度 株主対応が必要 買収企業の方針に従う

エグジット戦略を選ぶ際の視点:

  • 事業の成長フェーズと今後の展望
  • 創業者・経営陣の目標(事業継続か早期エグジットか)
  • 市場環境と競合の動向
  • 必要な資金と時間

上場確率約7%という現実を踏まえ、M&Aも有力な選択肢として検討することをお勧めします。どちらが正解というわけではなく、自社の状況と目標に合った選択をすることが重要です。

次のアクション:

  • IPOを検討するなら、まず監査法人へのショートレビュー相談を
  • エグジット戦略全体を検討するなら、VCや専門家への相談を
  • 社内の管理体制を点検し、課題を洗い出す

※この記事は2025年12月時点の情報です。上場基準や費用は変更される可能性があるため、最新情報は証券取引所公式サイトや専門家にご確認ください。

よくある質問:

Q: IPO準備にどのくらいの期間と費用がかかる? A: 準備期間は最低3〜5年です。費用は年間上場料48万〜456万円のほか、監査報酬(年間1,000万〜3,000万円程度)、コンサル費用などが必要です。N-3期から監査法人との契約を開始し、ショートレビューで課題を調査することが推奨されます。

Q: 東証グロース市場の上場基準は? A: 形式基準(株主数150人以上、流通株式時価総額5億円以上など)と実質基準(企業統治、コンプライアンス)の両方をクリアする必要があります。2025年からは維持基準が厳格化され、上場5年後に時価総額100億円以上が求められます。

Q: グロース市場は赤字でも上場できる? A: 赤字企業でも上場は可能です。ただし、2025年の基準変更により、上場5年後に時価総額100億円以上が維持基準として求められます。現在のグロース上場企業の約70%が100億円未満のため、計画的な成長戦略が必須です。

Q: M&AとIPOのどちらを選ぶべき? A: 一概には言えません。IPOは資金調達力と知名度が得られますが、経営の自由度が低下します。M&Aは短期的なエグジットが可能で、買収企業のリソースを活用できます。事業の成長フェーズと経営者の目標に応じて選択してください。

よくある質問

Q1IPO準備にどのくらいの期間と費用がかかる?

A1準備期間は最低3〜5年です。費用は年間上場料48万〜456万円のほか、監査報酬(年間1,000万〜3,000万円程度)、コンサル費用などが必要です。N-3期から監査法人との契約を開始し、ショートレビューで課題を調査することが推奨されます。

Q2東証グロース市場の上場基準は?

A2形式基準(株主数150人以上、流通株式時価総額5億円以上など)と実質基準(企業統治、コンプライアンス)の両方をクリアする必要があります。2025年からは維持基準が厳格化され、上場5年後に時価総額100億円以上が求められます。

Q3グロース市場は赤字でも上場できる?

A3赤字企業でも上場は可能です。ただし、2025年の基準変更により、上場5年後に時価総額100億円以上が維持基準として求められます。現在のグロース上場企業の約70%が100億円未満のため、計画的な成長戦略が必須です。

Q4M&AとIPOのどちらを選ぶべき?

A4一概には言えません。IPOは資金調達力と知名度が得られますが、経営の自由度が低下します。M&Aは短期的なエグジットが可能で、買収企業のリソースを活用できます。事業の成長フェーズと経営者の目標に応じて選択してください。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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