SaaSビジネスのインサイドセールス戦略【立ち上げから運用まで】

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/25

SaaS営業の商談数が伸び悩んでいて、成長が停滞している...

SaaS企業の営業責任者の多くが、商談数の確保に課題を抱えています。「マーケティングが獲得したリードが商談化しない」「フィールドセールスが商談に時間を割けていない」「リードが放置されて機会損失が発生している」といった悩みは尽きません。

この記事では、SaaSビジネスにおけるインサイドセールス戦略を、The Model型組織設計、立ち上げ手順、KPI設計、採用・育成まで、実践的に解説します。

この記事のポイント:

  • インサイドセールスは非対面で見込み客を育成し、フィールドセールスへバトンを渡す役割(導入企業の43.6%が商談数増加を報告)
  • SaaSは検討期間が長く長期的関係構築が必要なため、インサイドセールスと相性が良い
  • The Model型分業体制により、効率化31.5%・最適配置30.7%を実現(2024年調査)
  • 立ち上げ時は小規模チームでスタートし、商談化基準をフィールドセールスと事前にすり合わせる
  • 2024年調査で離職検討率74.1%と高く、適切な教育体制・評価制度が定着化の鍵

1. SaaSビジネスにおけるインサイドセールスの重要性

SaaS企業にとって、インサイドセールスが重要な理由を解説します。

(1) インサイドセールスとは(非対面営業の特徴)

インサイドセールス(Inside Sales)は、電話・メール・チャット等の非対面チャネルを使って営業活動を行う役割です。

主な特徴:

  • 見込み客(リード)に電話・メールでアプローチ
  • 課題ヒアリング・情報提供を通じて関心度を高める
  • 受注確度が高まったリードをフィールドセールスにバトンタッチ
  • 移動時間がゼロで、1日に多数のリードと接点を持てる

(出典: SaaS のインサイドセールスの役割 効果を徹底的に高めるには?

(2) なぜSaaS企業に向いているのか

SaaSビジネスは、以下の理由からインサイドセールスと相性が良いです:

SaaSの特性:

  • サブスクリプションモデル: 月額・年額課金で、長期的な関係構築が重要
  • 検討期間が長い: 導入検討から契約まで数ヶ月〜半年以上かかることが多い
  • LTV(Life Time Value)重視: 初回契約だけでなく、継続率・アップセル・クロスセルが重要
  • CAC(Customer Acquisition Cost)の最適化: リード獲得から受注までのコストを最小化したい

インサイドセールスを導入すると、長期的なリードナーチャリング(見込み客育成)が効率的に実施でき、フィールドセールスは受注確度の高い商談にリソースを集中できます。

(出典: SaaSビジネス成功の要となるインサイドセールスとは

(3) フィールドセールスとの違い

インサイドセールスとフィールドセールスの役割の違いは以下の通りです:

項目 インサイドセールス フィールドセールス
アプローチ方法 電話・メール・チャット(非対面) 対面訪問・商談
主な役割 リードナーチャリング、受注確度の向上 クロージング、受注
KPI 商談化数、商談化率、有効商談数 受注数、受注率、売上
接触リード数 1日20-50件以上 1日1-3件程度

The Model型分業体制では、両者が連携して営業プロセス全体を最適化します。

2. インサイドセールスの役割とThe Model

インサイドセールスの具体的な役割と、The Model型分業体制について解説します。

(1) リードナーチャリング(見込み客育成)

インサイドセールスの主要な役割は、リードナーチャリング(見込み客の育成)です。

リードナーチャリングの流れ:

  1. マーケティングが獲得したリードに電話・メールでアプローチ
  2. 課題ヒアリング・情報提供を繰り返し、関心度を高める
  3. ホワイトペーパー・ウェビナー・デモなどのコンテンツを提供
  4. 受注確度が高まったタイミングでフィールドセールスにバトンタッチ

このプロセスにより、フィールドセールスは受注確度の高い商談に集中でき、成約率が向上します。

(2) マーケティングとフィールドセールスの橋渡し

インサイドセールスは、マーケティングとフィールドセールスの橋渡し役を担います。

具体的な役割:

  • マーケティングが獲得したリードの温度感を確認し、「今すぐ客」と「そのうち客」を見極める
  • 「今すぐ客」はフィールドセールスに、「そのうち客」は継続的にナーチャリング
  • フィールドセールスから「まだタイミングではない」と判断されたリードをインサイドセールスが再度育成
  • マーケティングにリードの質に関するフィードバックを提供

この橋渡し機能により、部門間の情報共有が促進され、営業効率が向上します。

(出典: SaaSビジネス成功の要となるインサイドセールスとは

(3) The Model型分業体制のメリット

The Modelは、マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの4部門分業体制です。

The Model型分業のメリット:

  • 効率化: 各部門が専門特化し、生産性が向上(効率化31.5%)
  • 最適配置: 適材適所で人材を配置(最適配置30.7%)
  • 属人化の解消: プロセスが標準化され、担当者が変わっても継続可能
  • データドリブン: 各ステップのKPIを可視化し、ボトルネックを特定

(出典: SaaSのあるべき営業組織の体制とは?分業のメリットや注意点も含めて解説

ただし、分業化自体が目的化すると、部門間の対立や情報サイロが発生し、組織全体の営業生産性が低下するリスクがあります。後述する「部門間の情報共有ルール」が重要です。

(4) SDRとBDRの違い

インサイドセールスには、SDR(Sales Development Representative)とBDR(Business Development Representative)の2種類があります。

SDR:

  • マーケティングが獲得したリード(問い合わせ、ダウンロード、セミナー参加等)に対してアプローチ
  • 「反響型営業」とも呼ばれる
  • 関心度が一定ある見込み客が対象

BDR:

  • 企業リストから新規開拓を行う(コールドコール、メール営業等)
  • 「新規開拓型営業」とも呼ばれる
  • 全く接点のない見込み客が対象

SaaS企業では、SDRとBDRの役割を分けることで、より効果的なリードナーチャリングが可能になります。

3. インサイドセールス組織の立ち上げ手順

インサイドセールス組織を立ち上げる際の具体的な手順を解説します。

(1) 目的の明確化と商談化基準の設定

インサイドセールス立ち上げの最初のステップは、目的の明確化です。

明確にすべき事項:

  • インサイドセールスに期待する成果(商談数増加、成約率向上、LTV最大化等)
  • 「商談化の条件」を定義(どのような状態になったらフィールドセールスにバトンタッチするか)
  • フィールドセールスと事前にすり合わせ、認識齟齬を防ぐ

商談化基準の例:

  • BANT条件(Budget: 予算、Authority: 決裁権、Needs: 課題、Timeframe: 導入時期)が揃っている
  • デモ・トライアルを希望している
  • 複数の担当者が関与している

商談化の基準が不明確だと、フィールドセールスとの認識齟齬で「質の低い商談」が増え、成約率が下がります。

(出典: インサイドセールスの立ち上げを成功に導く5つの手順を徹底解説

(2) 小規模チームでのスタート

立ち上げ時は、小規模チーム(1-3名程度)でスタートし、成功パターンを確立してから拡大することが推奨されます。

小規模スタートのメリット:

  • トライアル&エラーで最適な運用方法を見つけやすい
  • 初期投資を抑えられる
  • 属人化を避けて、プロセスを標準化しやすい

(出典: インサイドセールスを立ち上げるための5つの手順【事例あり】

(3) フィールドセールス経験者をマネージャーに配置

インサイドセールスのマネージャーには、フィールドセールス経験者を配置すると成功しやすいと言われています。

理由:

  • 営業プロセス全体を理解しており、インサイドセールスとフィールドセールスの連携をスムーズに設計できる
  • 「どのような商談なら受注できるか」を理解しているため、商談化基準を適切に設定できる
  • フィールドセールスとの信頼関係を築きやすい

(4) 部門間の情報共有ルール策定

The Model型分業体制では、部門間の情報共有が極めて重要です。

情報共有ルールの例:

  • SFA/MAツール(Salesforce、HubSpot、Mazrica等)で活動ログと顧客データを一元管理
  • 週次または月次で部門間のミーティングを実施し、リードの状況をレビュー
  • フィールドセールスがクロージングした商談のフィードバックをインサイドセールスに共有
  • マーケティングにリードの質に関するフィードバックを提供

情報共有の仕組みが整っていないと、部門間の情報サイロが発生し、逆効果になる可能性があります。

(出典: 『分業化した営業組織がうまく回らない』──SaaS企業の課題、セールスフォース流の解決策は

4. KPI設計とツール活用

インサイドセールスのKPI設計とツール活用について解説します。

(1) 主要KPI(商談化数・商談化率・有効商談数)

インサイドセールスの主要KPIは以下の通りです:

主要KPI:

  • 商談化数: インサイドセールスがフィールドセールスに渡した商談の数
  • 商談化率: 接触したリードのうち、商談化した割合(例: 100件アプローチして10件商談化なら10%)
  • 有効商談数: フィールドセールスが「質の高い商談」と評価した件数
  • 接触数: 電話・メール等で接触したリードの数
  • 応答率: 電話をかけて応答があった割合

KPI設計のポイント:

  • 「商談化数」だけでなく「商談化率」「有効商談数」も重視(質と量のバランス)
  • フィールドセールスの受注率・売上も追跡し、インサイドセールスの貢献度を可視化

(出典: インサイドセールスを立ち上げるための5つの手順【事例あり】

(2) SFA/MAツールの活用

インサイドセールスでは、SFA(Sales Force Automation)/MA(Marketing Automation)ツールが不可欠です。

主要ツール:

  • Salesforce: 世界シェアNo.1のCRM/SFA、カスタマイズ性が高い
  • HubSpot: 無料プランあり、中小企業に適している
  • Mazrica: 国産SFA、直感的なUI/UX
  • Marketo / Pardot: MAツール、マーケティングとの連携に強い

ツール活用のポイント:

  • 顧客データ・活動ログをすべて記録し、部門間で共有
  • 自動レポート・ダッシュボードでKPIをリアルタイムで可視化
  • リードスコアリング機能で、受注確度の高いリードを優先的にアプローチ

(3) データに基づく改善サイクル

KPIを定期的にレビューし、データに基づく改善サイクルを回すことが重要です。

改善サイクルの例:

  1. 週次または月次でKPIをレビュー
  2. ボトルネックを特定(例: 応答率が低い、商談化率が低い等)
  3. 改善アクションを実施(例: アプローチ時間帯の変更、トークスクリプトの改善等)
  4. 効果を測定し、さらに改善

5. 採用・育成と定着化の課題

インサイドセールスの採用・育成と、2024年の定着化課題について解説します。

(1) 必要なスキル(ヒアリング力・仮説構築力・データ分析力)

インサイドセールスに求められるスキルは以下の通りです:

主要スキル:

  • ヒアリング力: 顧客の課題を引き出し、本音を聞き出す
  • 仮説構築力: 限られた情報から顧客のニーズを推測する
  • データ分析力: KPIを分析し、改善アクションを立案する
  • コミュニケーション力: 電話・メール・チャットで効果的に情報を伝える
  • 忍耐力: 断られることが多いため、メンタルタフネスが求められる

(2) 2024年調査:離職検討率74.1%の背景

2024年の調査によると、インサイドセールス担当者の74.1%が離職を検討した経験があると回答しています。

主な離職要因:

  • 高品質コンテンツ不足: 顧客に提供する資料・ホワイトペーパーが不足している
  • フォロー遅延: マーケティングが獲得したリードをタイムリーにフォローできない
  • 効果的なターゲティング不足: アプローチすべきリードの優先順位が不明確(2024年上半期、目標未達の要因として40.8%)
  • 評価制度の不備: 成果が正当に評価されない

(出典: 【インサイドセールス担当者の本音】2024年上半期目標未達成の要因インサイドセールス業界レポート2024-2025

(3) 定着化のための施策(教育体制・評価制度)

インサイドセールスの定着化には、以下の施策が有効です:

教育体制:

  • ロールプレイング・トークスクリプト作成
  • 優秀なメンバーのトーク録音・共有
  • 定期的なフィードバック・1on1ミーティング

評価制度:

  • KPIに基づく客観的な評価(商談化数、商談化率、有効商談数等)
  • フィールドセールスの受注率・売上への貢献度も評価
  • キャリアパス明示(インサイドセールス→フィールドセールス→マネージャー等)

リソース配分:

  • 高品質なコンテンツ(ホワイトペーパー、事例、デモ動画等)を整備
  • MAツールでリードスコアリングを実施し、優先順位を明確化

6. まとめ:インサイドセールスで営業成果を最大化するために

SaaSビジネスにおけるインサイドセールス戦略のポイントをまとめます。

成功のポイント:

  • The Model型分業体制を構築: マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの連携を強化
  • 商談化基準を明確化: フィールドセールスと事前にすり合わせ、部門間の認識齟齬を防ぐ
  • 小規模スタートで成功パターンを確立: 1-3名でスタートし、成果が出てから拡大
  • KPIをデータドリブンで管理: 商談化数・商談化率・有効商談数を可視化し、改善サイクルを回す
  • 教育体制・評価制度を整備: 離職率74.1%の背景を踏まえ、定着化施策を実施

次のアクション:

  • インサイドセールス導入の目的を明確にし、商談化基準を定義する
  • フィールドセールスと協議し、部門間の情報共有ルールを策定する
  • SFA/MAツールを導入し、KPIを可視化する
  • 小規模チームでスタートし、成功パターンを確立してから拡大する

SaaS企業にとって、インサイドセールスは営業成果を最大化するための重要な戦略です。段階的に体制を整備し、The Model型分業体制の効果を最大限に引き出しましょう。

よくある質問

Q1インサイドセールスとフィールドセールスの違いは?

A1インサイドセールスは非対面(電話・メール・チャット)で見込み客を育成し、フィールドセールスは対面でクロージングを担当します。The Model型分業体制では両者が連携し、営業プロセス全体を最適化します。

Q2なぜSaaS企業にインサイドセールスが向いているのか?

A2サブスクリプションモデルで検討期間が長く、長期的な関係構築が必要なためです。導入企業の43.6%が「商談数が大幅に増加」と報告しており、効果が実証されています。

Q3インサイドセールスの立ち上げで失敗しないコツは?

A3小規模チーム(1-3名)でスタートし、商談化の条件をフィールドセールスと事前にすり合わせることが重要です。KPIは商談化数・商談化率・有効商談数など成果に直結する指標を設定しましょう。

Q4インサイドセールスに必要なスキルは?

A4ヒアリング力、仮説構築力、データ分析力、コミュニケーション力が重要です。2024年調査では高品質コンテンツ不足・フォロー遅延が課題として挙がっており、適切なリソース配分と教育体制の整備が必要です。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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