社会課題を解決しながら、ビジネスとしても成長したいが、どう両立すればいいか分からない...
B2Bデジタルプロダクト企業の経営者や事業開発担当者の中には、「社会課題の解決に貢献したい」という想いを持ちながらも、「それがビジネスとして成立するのか?」「資金調達はどうすればいいのか?」といった疑問を抱えている方が少なくありません。
この記事では、社会的インパクトと経済成長を両立する「インパクトスタートアップ」の定義から特徴、国内外の事例、支援制度まで、B2B企業の経営者・事業開発担当者向けに分かりやすく解説します。
この記事のポイント:
- インパクトスタートアップは社会的インパクトの創出と持続的な経済成長を両立する企業
- 通常のスタートアップとは異なり、インパクト測定を行い社会的・環境的効果を定量評価
- 経済産業省がJ-Startup Impactを設立し、2023年に約500社から30社を選定して支援
- インパクトスタートアップ協会の正会員が138社(2024年9月時点)でエコシステムが急成長中
- 環境・医療・教育・金融包摂など、社会課題が明確な分野での事業展開が効果的
1. インパクトスタートアップが注目される背景
(1) 新しい資本主義とESG投資の潮流
2024年6月、政府は「新しい資本主義のグランドデザイン及びアクションプラン」にインパクトスタートアップの総合的支援策を盛り込みました。これは、社会課題解決と経済成長を両立させる経済政策の方向性を示すものです。
また、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)の拡大により、投資家も単なる財務的リターンだけでなく、社会的・環境的インパクトを重視するようになっています。この潮流の中で、社会課題を解決しながら持続的に成長するインパクトスタートアップが注目されています。
(2) B2Bデジタルプロダクト企業における社会課題解決の機会
B2Bデジタルプロダクト企業にとって、社会課題解決は新たなビジネス機会でもあります。
代表的な機会:
- 医療・福祉のDX: 医療現場の業務効率化、地域医療の格差解消
- 教育・保育のDX: 保育業務の負担軽減、教育格差の是正
- 環境・エネルギー: 脱炭素化、再生可能エネルギーの普及
- 金融包摂: 金融サービスにアクセスできない層への支援
これらの分野では、従来のビジネスモデルでは解決が難しかった課題が存在し、デジタル技術を活用した新しいアプローチが求められています。
2. インパクトスタートアップの定義と特徴
(1) 社会的インパクトと経済成長の両立
インパクトスタートアップとは、社会的インパクトの創出と持続的な経済成長を両立するスタートアップ企業のことです。
インパクトスタートアップ協会による定義の審査項目(3点):
- 明確な社会課題の特定: 解決すべき社会課題が明確に定義されている
- インパクト測定指標の設定: 社会的・環境的効果を定量的に測定する指標がある
- 持続可能なビジネスモデル: 社会課題解決を持続的に行うための収益モデルがある
(出典: インパクトスタートアップ協会「協会について」、2024年)
この3点を満たすことで、単なる社会貢献活動ではなく、ビジネスとして持続可能な形で社会課題を解決する企業として評価されます。
(2) インパクト測定の重要性
インパクトスタートアップの特徴的な点は、「インパクト測定」を行うことです。インパクト測定とは、事業活動が社会や環境に与える影響を定量的・定性的に評価することです。
インパクト測定の例:
- 医療分野: 診断時間の短縮、医療ミスの削減件数
- 教育分野: 学習時間の増加、教育格差の縮小率
- 環境分野: CO2削減量、再生可能エネルギー利用率
- 金融包摂: 金融サービスへのアクセス改善人数
これにより、社会的インパクトを客観的に評価し、投資家やステークホルダーに説明することが可能になります。
ただし、インパクト測定の手法は企業や分野により異なり、統一された基準はまだ確立されていないのが現状です。
(3) 主要な活動領域(環境・医療・教育等)
インパクトスタートアップが活動する主要領域は以下の通りです。
主要領域:
- 環境・エネルギー: 脱炭素、再生可能エネルギー、循環型経済
- 医療・福祉: 医療DX、地域医療支援、介護負担軽減
- 教育・保育: 教育格差解消、保育業務効率化
- 食・農業: 食品ロス削減、持続可能な農業
- 金融包摂: 金融サービスへのアクセス改善、マイクロファイナンス
これらの領域では、社会課題が明確であり、デジタル技術を活用した解決策が求められています。
3. 従来のスタートアップとの違い
(1) ミッションと評価指標の違い
通常のスタートアップとインパクトスタートアップの最大の違いは、ミッションと評価指標です。
通常のスタートアップ:
- ミッション: 経済的リターンの最大化
- 評価指標: 売上、利益、成長率、株価
インパクトスタートアップ:
- ミッション: 社会課題解決と経済成長の両立
- 評価指標: 社会的インパクト(定量指標)+ 財務的リターン
インパクトスタートアップは、財務的な成長だけでなく、社会的・環境的効果も評価されます。
(2) 資金調達先とステークホルダーの違い
資金調達先にも違いがあります。
通常のスタートアップ:
- 資金調達先: VC(ベンチャーキャピタル)、エンジェル投資家
- 主な期待: 高い財務的リターン
インパクトスタートアップ:
- 資金調達先: インパクト投資家、ESG投資家、政府支援プログラム
- 主な期待: 財務的リターン + 社会的・環境的インパクト
インパクト投資家は、財務的リターンに加えて社会的・環境的インパクトも重視します。ただし、日本ではインパクト投資の市場はまだ発展途上であり、通常のVC投資と比べて資金調達の選択肢が限られる可能性があります。
(3) ソーシャルビジネスとの違い
インパクトスタートアップとソーシャルビジネスは、どちらも社会課題解決を目指しますが、以下の点で異なります。
ソーシャルビジネス:
- 社会課題解決が主目的、収益は二次的
- NPOや社会的企業が多い
- 成長スピードは比較的緩やか
インパクトスタートアップ:
- 社会課題解決と持続的な経済成長を両立
- スタートアップとしての高成長を目指す
- テクノロジー活用によるスケーラビリティ重視
インパクトスタートアップは、社会課題解決をビジネスとして持続可能な形で拡大することを目指します。
4. 国内外の事例と成功パターン
(1) 医療・福祉分野の事例(Medii等)
医療・福祉分野では、医師不足や地域医療の格差といった社会課題を解決するインパクトスタートアップが登場しています。
代表的な事例:
- Medii: 医師の知見を共有するプラットフォームを提供し、医療現場の診断精度向上と医師の負担軽減を実現
これにより、医療の質向上と医師の働き方改革の両方に貢献しています。
(出典: DRIVE「インパクトスタートアップってどんな企業?企業事例10選」、2024年)
(2) 教育・保育分野の事例(ユニファ等)
教育・保育分野では、保育士不足や教育格差といった課題に取り組むスタートアップがあります。
代表的な事例:
- ユニファ: 保育施設向けICTシステムを提供し、保育士の業務負担を軽減。保育の質向上と働き方改革を両立
これにより、保育士が本来の業務に集中でき、子どもとの時間を増やすことができます。
(3) 金融包摂分野の事例(ベタープレイス等)
金融包摂分野では、金融サービスにアクセスできない層への支援を行うスタートアップがあります。
代表的な事例:
- ベタープレイス: 外国人労働者向けの金融サービスを提供し、金融格差の解消を目指す
これにより、従来の金融機関がカバーできなかった層にも金融サービスが届くようになります。
5. 支援制度と資金調達の特徴
(1) J-Startup Impactの支援内容
J-Startup Impactは、経済産業省が2023年10月に設立した官民一体のインパクトスタートアップ育成支援プログラムです。
支援内容:
- 選定企業数: 2023年に約500社のエントリーから30社を選定
- 支援内容: 資金調達支援、ネットワーク構築、海外展開支援、広報支援
- 目的: ロールモデルの育成とエコシステムの形成
(出典: 経済産業省「J-Startup Impact」を設立、2023年)
選定企業には、政府からの広報支援やネットワーキング機会の提供など、さまざまなメリットがあります。最新の支援内容や選定企業情報は、経済産業省の公式サイトで確認してください。
(2) インパクトスタートアップ協会の役割
インパクトスタートアップ協会は、インパクトスタートアップのエコシステム形成を目指す業界団体です。
協会の活動:
- 正会員数: 138社(2024年9月時点)
- 活動内容: 知見共有、ネットワーキング、政策提言、普及啓発
- イベント: IMPACT STARTUP SUMMIT 2024を開催(500名以上が参加)
(出典: インパクトスタートアップ協会「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024開催決定」、2024年)
協会への加盟により、他のインパクトスタートアップとの交流や知見共有の機会が得られます。
(3) インパクト投資とVCの違い
インパクト投資とVCの違いは、評価基準と期待するリターンです。
インパクト投資:
- 評価基準: 財務的リターン + 社会的・環境的インパクト
- 投資期間: 中長期(5〜10年)
- 期待するリターン: 財務的リターンとインパクトの両立
通常のVC:
- 評価基準: 主に財務的リターン(売上成長率、利益率等)
- 投資期間: 短中期(3〜7年)
- 期待するリターン: 高い財務的リターン(10倍以上のリターンを目指す)
インパクト投資家は、社会的インパクトの測定結果を重視します。ただし、日本のインパクト投資市場はまだ発展途上であり、選択肢は通常のVC投資より限定的です。政府支援プログラムの活用も重要な資金調達手段となります。
6. まとめ:インパクトスタートアップの可能性
インパクトスタートアップは、社会的インパクトの創出と持続的な経済成長を両立する新しい形のスタートアップです。通常のスタートアップとは異なり、インパクト測定を行い、社会的・環境的効果を定量的に評価する点が特徴です。
次のアクション:
- 自社の事業が解決できる社会課題を明確に定義する
- インパクト測定の指標を設定し、定量的な評価を開始する
- インパクトスタートアップ協会への加盟やJ-Startup Impact選定を目指す
- インパクト投資家との接点を作り、資金調達の可能性を探る
- 政府支援プログラムの最新情報を公式サイトで確認する
社会課題解決と経済成長を両立させることで、B2Bデジタルプロダクト企業は新たな成長機会を掴むことができます。
※この記事は2023-2024年時点の情報です。政府支援プログラムや協会の情報は更新される可能性があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
