インパクトスタートアップとは
「社会課題を解決しながら、ビジネスとしても成長できるのだろうか?」
スタートアップ経営者や事業開発担当者の中には、社会的インパクトと経済的リターンの両立に関心を持ちながらも、その実現方法に悩んでいる方が多いのではないでしょうか。ESG投資やSDGsへの注目が高まる中、インパクトスタートアップという新しい企業形態が脚光を浴びています。
この記事では、インパクトスタートアップの定義・特徴・評価指標から、国内外の事例、支援制度まで徹底解説します。
この記事のポイント:
- インパクトスタートアップは社会課題解決と経済成長を両立する企業形態
- 通常のスタートアップとの違いはインパクト測定・マネジメント(IMM)の実践にある
- J-Startup Impactなど政府による集中支援プログラムが拡充中
- インパクト投資市場は2024年に17兆円超に拡大し、資金調達環境が改善
- 医療・福祉・教育・環境など多様な分野で具体的な成功事例が存在
(1) 定義と「新しい資本主義」の背景
インパクトスタートアップとは、社会的・環境的課題の解決と持続的な経済成長を両立する企業を指します。経済産業省は「社会的インパクトの創出と持続的な経済成長を目的とするスタートアップ」と定義しており、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」を体現する存在として位置づけられています。
従来のスタートアップが経済的リターンを最優先するのに対し、インパクトスタートアップは社会課題解決を事業の中核に据えつつ、収益性も追求する点が特徴です。
2024年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、インパクトスタートアップの総合的支援策が提示されており、政府としても積極的に育成を進めています。
(2) 注目される3つの理由
インパクトスタートアップが注目される理由は以下の3点です。
①インパクト投資市場の拡大
インパクト投資市場は急速に拡大しており、2022年の約11兆円から2024年には17兆円超に成長しています。経済的リターンと社会的インパクトの両方を求める投資家が増加しており、資金調達環境が改善しています。
②ESG・SDGsへの関心の高まり
グローバル企業を中心にESG経営やSDGs達成への取り組みが本格化しており、社会課題解決型のビジネスモデルが評価されるようになっています。
③政府による集中支援
経済産業省が2023年10月に立ち上げた「J-Startup Impact」プログラムをはじめ、インパクトスタートアップを育成する政策が充実しつつあります。
インパクトスタートアップと通常のスタートアップの違い
インパクトスタートアップと通常のスタートアップには、いくつかの重要な違いがあります。
(1) 社会的インパクトと経済成長の両立モデル
最大の違いは目的にあります。通常のスタートアップは経済的リターンを最優先しますが、インパクトスタートアップは社会課題解決と経済成長の両立を目指します。
例えば、医療分野では「Medii」のように医師と医療機関をマッチングすることで地域医療の課題を解決しつつ、事業としても成長している企業があります。また、福祉分野では「ベタープレイス」が外国人介護人材の定着支援を通じて介護人材不足という社会課題に取り組んでいます。
ただし、社会的インパクトと経済成長の両立は容易ではなく、長期的な視点(3〜5年)と試行錯誤が必要です。
(2) ビジネスモデルと事業領域の違い
インパクトスタートアップは、医療・福祉・教育・環境・エネルギーなど、社会課題が深刻な分野で活動するケースが多いです。これらの分野は市場ニーズが高く、適切なビジネスモデルを設計すれば持続的な収益を確保できる可能性があります。
一方で、規制が厳しい分野も多く、事業化までに時間がかかる場合もあります。
(3) 資金調達とインパクト投資の特徴
インパクトスタートアップは、インパクト投資家からの資金調達が可能です。インパクト投資とは、経済的リターンと社会的・環境的インパクトの両方を目指す投資手法です。
ただし、インパクト投資市場はまだ成長途上であり、従来型のVC(ベンチャーキャピタル)や事業会社からの資金調達も併用する必要があると言われています。
インパクトスタートアップの評価指標とインパクト測定
インパクトスタートアップの特徴の一つは、インパクト測定・マネジメント(IMM)の実践です。
(1) インパクト測定・マネジメント(IMM)とは
IMMとは、社会的インパクトを定量的・定性的に測定し管理する手法です。従来のビジネス指標(売上・利益・成長率など)に加えて、社会的価値を可視化することで、投資家やステークホルダーに対して自社の取り組みを説明しやすくなります。
IMMの実践により、以下のメリットがあると言われています。
- 社会的インパクトの可視化によるブランド価値向上
- インパクト投資家からの資金調達の円滑化
- 事業戦略の改善(どの施策がインパクトを生んでいるかを把握)
- ステークホルダーとの信頼関係構築
(2) 主要な評価指標と測定方法
IMMの具体的な測定方法は分野によって異なりますが、以下のような指標が用いられることが一般的です。
医療分野の例:
- 医療アクセス改善人数(地域医療の充実度)
- 医療費削減額(効率化の効果)
- 患者満足度の向上率
環境分野の例:
- CO2削減量(気候変動対策への貢献)
- 再生可能エネルギー導入量
- 資源循環率(廃棄物削減効果)
教育分野の例:
- 教育機会提供人数(教育格差の解消)
- 学習成果の向上率
- 就職・キャリア形成支援実績
インパクト測定・マネジメントに関しては、専門家からの助言や支援を受けることが推奨されます。
国内外のインパクトスタートアップ事例
(1) J-Startup Impact選定企業30社の事例
経済産業省が2023年10月に立ち上げた「J-Startup Impact」プログラムでは、約500社の応募から30社が選定されました。選定企業は以下のような分野で活動しています。
- 医療・ヘルスケア
- 福祉・介護
- 教育・人材育成
- 環境・エネルギー
- 地方創生・まちづくり
- フードテック
- その他(障がい者支援、災害対策など)
選定企業には、政府による集中支援(経営支援、資金調達支援、海外展開支援など)が提供されます。
(2) 分野別の代表的な企業(医療・福祉・教育・環境)
具体的な企業事例としては、以下のような企業が挙げられます。
医療分野:
- Medii: 医師と医療機関をマッチングし、地域医療の課題を解決
- その他: オンライン診療、遠隔医療支援など
福祉分野:
- ベタープレイス: 外国人介護人材の定着支援で介護人材不足に対応
- ユニファ: 保育施設のDX化で保育士の業務負担を軽減
教育分野:
- 教育格差の解消、リカレント教育支援、キャリア形成支援など
環境分野:
- 再生可能エネルギー、資源循環、気候変動対策など
これらの企業は、社会課題解決と収益性の両立を実現している事例として参考になります。
インパクトスタートアップへの支援制度
(1) J-Startup Impactプログラム
「J-Startup Impact」は、経済産業省が官民一体で運営するインパクトスタートアップ育成支援プログラムです。
選定基準:
- 社会課題解決の明確性
- インパクト測定の実践
- 持続的な事業モデル
- 成長可能性
選定企業は30社と狭き門ですが、選定されれば以下のような支援が受けられます。
- 経営支援(メンタリング、アドバイザリー)
- 資金調達支援(投資家紹介、ピッチ機会提供)
- 海外展開支援(グローバルネットワーク活用)
- 広報支援(認知度向上、ブランディング)
(2) インパクトスタートアップ協会の活動
一般社団法人インパクトスタートアップ協会は、インパクトスタートアップのエコシステム構築を目指す業界団体です。2025年1月時点で正会員が206社に拡大しており、賛助会員も10社が参加しています。
協会の主な活動:
- エコシステム構築(スタートアップ・投資家・支援機関の連携)
- 情報発信・啓発活動
- イベント開催(IMPACT STARTUP SUMMITなど)
- 政策提言・アドボカシー活動
協会への加盟により、エコシステムへの参加や支援が受けられるメリットがあります。
(3) インパクト投資とその活用方法
インパクト投資市場は急拡大しており、資金調達の選択肢が広がっています。インパクト投資家にアピールするポイントは以下の通りです。
- 社会的インパクトの定量的測定結果(IMM実践)
- 長期的な事業計画と収益モデル(3〜5年の視点)
- SDGsやESGとの整合性(どの目標に貢献するか)
- 経営チームの実績と情熱(社会課題解決への本気度)
ただし、インパクト投資市場はまだ発展途上であり、従来型の資金調達手法も併用する必要があります。
※支援プログラムや協会加盟の内容は変更される可能性があるため、最新情報は各公式サイトをご確認ください。(この記事は2025年12月時点の情報です)
まとめ:インパクトスタートアップを目指すためのポイント
インパクトスタートアップは、社会課題解決と経済成長を両立する新しい企業形態として注目されています。政府による支援プログラムやインパクト投資市場の拡大により、事業環境は改善しつつあります。
インパクトスタートアップを目指すためのポイント:
- 社会課題解決を事業の中核に据え、インパクト測定・マネジメント(IMM)を実践する
- 長期的な視点(3〜5年)で事業計画を立て、短期的な収益を追わない
- インパクトスタートアップ協会やJ-Startup Impactなどのエコシステムに参加する
- インパクト投資家だけでなく、従来型の資金調達手法も併用する
- 先行事例を参考にしながら、自社の強みを活かした独自の社会課題解決モデルを構築する
次のアクション:
- 自社が解決したい社会課題を明確にする
- インパクト測定・マネジメント(IMM)の専門家に相談する
- インパクトスタートアップ協会への加盟を検討する
- J-Startup Impactへの応募を検討する(選定基準を満たしているか確認)
- インパクト投資家とのネットワーキングを開始する
社会課題解決と経済成長を両立するインパクトスタートアップとして、持続可能な事業モデルを構築していきましょう。
