アトツギベンチャーとは?事業承継×スタートアップの新潮流を解説

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/21

アトツギベンチャーとは?事業承継の新潮流が注目される背景

「家業を継ぐべきか、新しいことに挑戦すべきか」——中小企業の後継者候補の多くが、このジレンマに悩んでいます。従来の事業承継は既存事業をそのまま引き継ぐイメージでしたが、近年「アトツギベンチャー」という新しい形が注目を集めています。

この記事のポイント:

  • アトツギベンチャーは「家業の継承」と「新規事業への挑戦」を両立するハイブリッド型のビジネスモデル
  • 既存の経営資源(技術・顧客基盤・信用)を活用しながらイノベーションに挑戦できる
  • 一般社団法人ベンチャー型事業承継が2,500人の後継者をサポート、約120人のメンターが支援
  • 2024年12月に「アトツギベンチャー」が商標登録され、指標策定プロジェクトが発足
  • 家業がない人でも後継者人材バンクを活用すれば第三者承継によりアトツギベンチャーに挑戦可能

(1) アトツギベンチャーの定義(家業×イノベーションのハイブリッド型)

アトツギベンチャーとは、家業の後継者が既存の経営資源を活用しながら、新規事業開発や事業変革に挑戦する「ベンチャー型事業承継」のことです。一般社団法人ベンチャー型事業承継によると、2018年の設立以来、約2,500人の後継者を支援し、約120人のアトツギベンチャー経営者がメンターとして活動しています。

(2) 「ゼロから起業」と「家業そのまま継承」の中間に位置する新しい形

株式会社リクルートの調査によれば、アトツギベンチャーは「ゼロから起業」と「家業そのまま継承」の中間に位置するハイブリッド型ベンチャーと定義されています。ゼロからの起業では資金調達・顧客開拓・信用構築のすべてを自力で行う必要がありますが、アトツギベンチャーは既存の経営資源を活用できるため、起業リスクを抑えながらイノベーションに挑戦できる点が特徴です。

(3) 中小企業の事業承継課題と後継者不足の現状

中小企業の事業承継は、少子高齢化や後継者不足により深刻な課題となっています。経済産業省の「ぼくらのアトツギベンチャープロジェクト」では、後継者が既存事業の維持だけでなく新規事業への挑戦を通じて企業価値を高める事例が紹介されています。

(4) 2024年12月に商標登録、指標策定プロジェクト発足

2024年12月、一般社団法人ベンチャー型事業承継により「アトツギベンチャー」が商標登録され、指標策定プロジェクトが発足しました。これにより、アトツギベンチャーの定義や評価指標が明確化され、今後の支援体制の拡充が期待されています。また、2024年12月22-23日には「アトツギベンチャーサミット2024」が開催され、「Long Termism(長期主義)」をテーマに革新と持続可能性が議論されました。

アトツギベンチャーの基礎知識(従来の事業承継・スタートアップとの違い)

アトツギベンチャーは、従来の事業承継や通常のスタートアップとは異なる特徴を持っています。

(1) 従来の事業承継との違い(既存事業の維持 vs 新規事業への挑戦)

従来の事業承継では、後継者は既存事業をそのまま引き継ぎ、安定的な経営を目指すことが一般的でした。一方、アトツギベンチャーでは、既存事業を維持しながらも新規事業開発や事業変革に積極的に挑戦します。THE OWNERの解説によると、既存の技術や顧客基盤を活用しつつ新市場を開拓する点が、従来型の事業承継と大きく異なる点です。

(2) 通常のスタートアップとの違い(ゼロからの起業 vs 既存資源の活用)

通常のスタートアップは、ゼロから資金調達・組織構築・顧客開拓を行う必要があり、高いリスクを伴います。一方、アトツギベンチャーは既存の経営資源(技術・顧客基盤・信用・資金)を活用できるため、起業リスクを大幅に抑えながらイノベーションに挑戦できます。

(3) ハイブリッド型ベンチャーの強み(技術・顧客基盤・信用の活用)

アトツギベンチャーの最大の強みは、既存の経営資源を活用できる点です。

活用できる経営資源:

  • 技術・ノウハウ: 長年培った製造技術や業界知識
  • 顧客基盤: 既存顧客との信頼関係
  • 信用: 長年の実績による金融機関や取引先からの信用
  • 資金: 既存事業からのキャッシュフロー

これらの資源を新規事業に活用することで、ゼロからの起業と比べて成功確率を高めることができます。

(4) IPO志向だけでなくLong Termism(長期主義)も重視

アトツギベンチャーサミット2024では、「Long Termism(長期主義)」がテーマとして掲げられました。IPOやバイアウトを目指すだけでなく、地域に根を張り企業永続のために小さな挑戦を重ねることも、ベンチャー型事業承継の定義に含まれます。短期的な利益追求ではなく、長期的な企業価値の向上と地域社会への貢献を重視する姿勢が特徴です。

アトツギベンチャーの成功パターンと具体的事例

実際にアトツギベンチャーとして成功している企業の事例を見てみましょう。

(1) 平安伸銅工業(LABRICO):突っ張り棒メーカーがDIYブランド開発

株式会社リクルートの記事で紹介された平安伸銅工業は、創業70年以上の突っ張り棒メーカーです。後継者が既存の突っ張り棒技術を活用し、「LABRICO(ラブリコ)」というDIYブランドを開発しました。従来のBtoB事業からBtoC市場への展開に成功し、新しい顧客層を獲得した事例です。

(2) 木村石鹸:伝統石鹸メーカーがライフスタイルブランドへ変革

THE OWNERで紹介された木村石鹸は、大正13年創業の石鹸メーカーです。後継者が既存の石鹸製造技術を活かしつつ、ライフスタイルブランドとしてのブランディングを強化し、直販ビジネスを展開しました。伝統的な製造業からライフスタイル提案型のビジネスへと変革を遂げた事例です。

(3) サナダ精工・ノボル電機等の地域事例

大阪産業局の「NEXT INNOVATION」事例集では、サナダ精工やノボル電機など、地域に根ざした中小企業のアトツギベンチャー事例が紹介されています。これらの企業は、既存の製造技術を活かしつつ新市場を開拓し、地域経済の活性化にも貢献しています。

(4) 成功の共通パターン:既存技術×新市場、社内理解の獲得

成功しているアトツギベンチャーには、以下の共通パターンが見られます。

成功の共通パターン:

  • 既存技術×新市場: 既存の技術やノウハウを新しい市場に応用
  • 社内理解の獲得: 先代経営者や従業員の理解を得ながら変革を進める
  • 段階的な挑戦: いきなり大きな変革ではなく、小さな成功を積み重ねる
  • 外部ネットワークの活用: コミュニティやメンターからの学びを活用

アトツギベンチャーを支援する制度・組織

アトツギベンチャーに挑戦する後継者を支援する公的・民間の組織が複数あります。

(1) 一般社団法人ベンチャー型事業承継(2,500人サポート、約120人のメンター)

2018年に設立された一般社団法人ベンチャー型事業承継は、全国にアトツギエコシステムを実現することを目指しています。これまでに約2,500人の後継者をサポートし、約120人のアトツギベンチャー経営者がメンターとして支援活動を行っています。後継者同士の学びと交流の場を提供し、アトツギベンチャーの成長を支援しています。

公式サイト: https://take-over.jp/

(2) 経済産業省「ぼくらのアトツギベンチャープロジェクト」

経済産業省が推進する「ぼくらのアトツギベンチャープロジェクト」では、アトツギベンチャーの先進事例の共有や、後継者同士のネットワーキング支援を行っています。政府による公的な支援として、アトツギベンチャーの認知度向上と支援体制の拡充を目指しています。

公式サイト: http://next-innovation.go.jp/renovator/

(3) 家業イノベーション・ラボ・家業エイド等のコミュニティ

家業イノベーション・ラボは、2017年10月に開始された後継者同士のコミュニティです。同じ立場の後継者が悩みを共有し、学び合える場を提供しています。家業エイドなど、他にも複数のコミュニティが存在し、地域や業種に応じた支援を受けることができます。

家業イノベーション・ラボ公式サイト: https://kagyoinnovationlabo.com/

(4) 中小機構「後継者人材バンク」(第三者承継のマッチング支援)

中小企業基盤整備機構(中小機構)の「後継者人材バンク」は、後継者不在企業と起業希望者をマッチングする制度です。家業がない人でも、第三者承継によりアトツギベンチャーに挑戦できる機会を提供しています。既存の経営資源を活用しつつ起業リスクを抑えて新規事業に挑戦したい方にとって、有力な選択肢となります。

公式サイト: https://shoukei.smrj.go.jp/human_resources_bank.html

アトツギベンチャーを始めるステップと注意点

アトツギベンチャーに挑戦する際には、いくつかの注意点があります。

(1) 既存事業とのバランス(リソース配分の判断が難しい)

家業の既存事業を維持しながら新規事業に挑戦する場合、リソース(人材・資金・時間)の配分が難しい課題となります。既存事業の売上を維持しつつ新規事業への投資を行うバランス感覚が求められます。

リソース配分のポイント:

  • 既存事業のキャッシュフローを確保しながら段階的に新規事業に投資
  • 新規事業専任のチームを作り、既存事業への影響を最小限に抑える
  • 小さく始めて成果を見ながら投資を拡大

(2) 先代経営者や社内の理解獲得(社内調整に時間がかかる)

新しい挑戦を始める際、先代経営者や従業員の理解を得ることが重要です。特に長年同じ事業を続けてきた企業では、変革への抵抗が生じることもあります。

社内理解獲得のポイント:

  • 新規事業の意義と既存事業との相乗効果を丁寧に説明
  • 小さな成功事例を作り、社内の信頼を獲得
  • 先代経営者の経験や知見を尊重しながら新しい視点を取り入れる

(3) 既存資源に依存しすぎないイノベーション創出

既存の経営資源を活用できる点はアトツギベンチャーの強みですが、既存資源に依存しすぎると真の意味でのイノベーションが生まれにくくなる可能性があります。既存の枠組みにとらわれず、外部の知見や新しい技術を積極的に取り入れる姿勢が重要です。

(4) コミュニティ活用による学びと悩み共有

アトツギベンチャーに挑戦する後継者は、同じ立場の仲間と悩みを共有し学び合うことが有効です。一般社団法人ベンチャー型事業承継、家業イノベーション・ラボ、家業エイド等のコミュニティを活用し、メンターや先輩アトツギからアドバイスを受けることで、試行錯誤のプロセスを効率化できます。

まとめ:アトツギベンチャーに向いている人・企業とは

アトツギベンチャーは、家業の継承と新規事業への挑戦を両立したい後継者にとって、有力な選択肢となります。既存の経営資源を活用しながらイノベーションに挑戦できる点が最大の魅力です。

アトツギベンチャーに向いている人:

  • 家業を継ぎつつ新しいことに挑戦したい後継者候補
  • 既存事業の強みを活かして新市場を開拓したい経営者
  • 第三者承継により既存企業の経営資源を活用して起業したい人

次のアクション:

  • 一般社団法人ベンチャー型事業承継や経済産業省のプロジェクトで情報収集
  • 家業イノベーション・ラボ等のコミュニティに参加し、先輩アトツギの事例を学ぶ
  • 中小機構「後継者人材バンク」で第三者承継の可能性を探る
  • 小さな新規事業から始めて、段階的に挑戦の幅を広げる

既存の経営資源を活かしながら新しい挑戦を重ねることで、企業価値の向上と地域社会への貢献を同時に実現できるでしょう。

※この記事は2024年12月時点の情報に基づいています。支援プログラムや制度は地域によって内容が異なるため、具体的な支援を受ける際は各地域の窓口で最新情報を確認してください。

よくある質問

Q1アトツギベンチャーと通常のスタートアップの違いは?

A1通常のスタートアップはゼロから起業し資金調達・組織構築が必要ですが、アトツギベンチャーは既存の経営資源(技術・顧客基盤・信用・資金)を活用できるハイブリッド型です。起業リスクを抑えつつイノベーションに挑戦できる点が特徴で、IPO志向だけでなく地域に根を張り企業永続を目指す形もあります。

Q2アトツギベンチャーを支援する公的・民間組織は?

A2主な支援組織は、一般社団法人ベンチャー型事業承継(2,500人サポート、メンター約120人)、経産省「ぼくらのアトツギベンチャープロジェクト」、家業イノベーション・ラボ等のコミュニティ、中小機構「後継者人材バンク」(第三者承継マッチング)です。地域によって内容が異なるため、最新情報の確認が推奨されます。

Q3家業がない人でもアトツギベンチャーになれる?

A3可能です。中小機構「後継者人材バンク」を活用すれば、後継者不在企業と起業希望者のマッチングにより第三者承継でアトツギになれます。既存の経営資源を活用しつつ起業リスクを抑えて新規事業に挑戦できるため、家業の有無にかかわらずアトツギベンチャーの選択肢があります。

Q4アトツギベンチャーの成功事例にはどのようなものがある?

A4代表的な成功事例として、平安伸銅工業(突っ張り棒メーカーがLABRICOというDIYブランドを開発)、木村石鹸(伝統石鹸メーカーがライフスタイルブランドへ変革)などがあります。既存技術を新市場に応用し、社内理解を得ながら段階的に挑戦を進めた点が共通しています。

Q5アトツギベンチャーを始める際の注意点は?

A5主な注意点は、既存事業とのリソース配分のバランス、先代経営者や社内の理解獲得、既存資源に依存しすぎないイノベーション創出です。小さく始めて成果を見ながら投資を拡大し、コミュニティを活用して先輩アトツギからアドバイスを受けることが推奨されます。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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