企業オウンドメディアを立ち上げたいけれど、何から始めればいいか分からない...
B2B企業のマーケティング担当者の多くが、オウンドメディアの立ち上げを検討しています。「他社はどんな成果を出しているの?」「どのくらいの期間と予算が必要?」「自社に合った運営方法は?」といった疑問は尽きません。
この記事では、企業オウンドメディアの定義から成功事例、具体的な立ち上げ手順まで、実践的な情報を網羅的に解説します。
この記事のポイント:
- 企業オウンドメディアは自社が所有・運営するメディアで、長期的な集客基盤となる
- B2B企業の40%がすでに運営中(東証プライム上場企業、2024年調査)
- 成果が出るまで半年〜1年かかるため、長期的視点での運営が必要
- サイボウズ式、メルカン、北欧暮らしの道具店など目的別の成功事例が参考になる
- 明確な目的設定、ターゲット設定、継続的な運営体制が成功の鍵
1. 企業オウンドメディアとは何か
企業オウンドメディアとは、企業が自ら所有・運営するメディアのことです。Webサイト、ブログ、SNSアカウントなどが含まれます。
(1) オウンドメディアの定義(自社所有・運営メディア)
オウンドメディア(Owned Media)は、企業が自ら所有し、情報発信のタイミングとコンテンツを完全に管理できるメディアです。広告やプレスリリースとは異なり、掲載内容・タイミング・表現方法をすべて自社でコントロールできる点が特徴です。
代表的なオウンドメディアの形態:
- 企業ブログ・記事型メディア
- コーポレートサイト内の情報発信セクション
- メールマガジン
- 自社運営のSNSアカウント
- YouTube公式チャンネル
(2) BtoB企業とBtoC企業のオウンドメディアの違い
B2B企業とB2C企業では、オウンドメディアの特性が大きく異なります。
B2B企業の特性:
- 購買サイクルが長い(数ヶ月〜数年)
- 複数人が意思決定に関与する
- 専門性の高いコンテンツが求められる
- リード獲得→ナーチャリング→商談化という長期的なプロセス
B2C企業の特性:
- 購買サイクルが短い(即日〜数週間)
- 個人の意思決定が中心
- 感性に訴えるコンテンツが有効
- 認知→興味→購買という比較的短いプロセス
B2B企業のオウンドメディアでは、専門領域の知見を活かし、ターゲット顧客の業務課題に対応するコンテンツを作成することが重要です。
(3) 企業がオウンドメディアを運営する主な目的
オウンドメディアの運営目的は企業によって異なりますが、主に以下の4つに分類されます。
1. ブランディング: 企業や製品のブランド価値を高め、業界での認知度・信頼性を向上させる。専門性の高いコンテンツを継続的に発信することで、「この分野の専門家」というポジションを確立できます。
2. リード獲得: 見込み顧客の情報を取得し、営業活動につなげる。ホワイトペーパーのダウンロード、問い合わせフォーム、ウェビナー申込などを通じて、質の高いリードを獲得します。
3. リクルーティング(採用): 企業文化や働き方を発信し、優秀な人材を惹きつける。メルカン(メルカリ)やサイボウズ式など、採用を主目的としたオウンドメディアも増えています。
4. カスタマーサポート・教育: 既存顧客向けに活用方法やベストプラクティスを提供し、顧客満足度を向上させる。製品の使い方、業界トレンド、活用事例などを発信します。
2. B2B企業がオウンドメディアに取り組むべき理由
B2B企業にとって、オウンドメディアは長期的な成長戦略の重要な柱となります。
(1) 長期的なリード獲得の実現
B2B企業はオウンドメディアで長期的なリード獲得を実現できます。一度検索エンジンで上位表示に成功すれば、中長期的に安定したリード獲得が可能になります。
広告と異なり、オウンドメディアのコンテンツは掲載期間の制限がありません。公開から数ヶ月〜数年後も継続的に集客し続けるため、投資対効果が時間とともに向上していきます。
(2) コンテンツが資産として蓄積される
作成したコンテンツは企業の資産として長期的に価値を持ち続けます。広告は予算を止めれば効果もなくなりますが、オウンドメディアのコンテンツは一度作成すれば半永久的に活用できます。
コンテンツ資産の蓄積により:
- 検索エンジンでの評価が高まる
- サイト全体の権威性が向上する
- 関連コンテンツ同士で相乗効果が生まれる
- 既存コンテンツのリライトで最新情報にアップデート可能
(3) 専門性を活かしたブランディング強化
B2B企業は専門領域の深い知見を持っています。この専門性を活かしたコンテンツを発信することで、「この分野なら○○社」というポジションを確立できます。
専門性の高いコンテンツ例:
- 業界トレンド分析
- 技術的な解説記事
- 導入事例・ケーススタディ
- 調査レポート・統計データ
- 実務担当者向けのハウツー記事
(4) 東証プライム企業の40%が運営中(2024年調査)
2024年の調査によると、東証プライム上場企業の40%がオウンドメディアを運営中です。普及率は年々上昇しており、オウンドメディアはB2B企業にとって「あれば良い」ものではなく、「必要不可欠」なマーケティング施策になりつつあります。
3. 企業オウンドメディアの成功事例
目的別・規模別の成功事例から、自社に参考になるポイントを見つけましょう。
(1) BtoB成功事例(サイボウズ式、メルカン等)
サイボウズ式:
- 目的: ブランディング・採用
- 特徴: 働き方、チームワーク、多様性をテーマにした記事を発信
- 成果: サイボウズの企業文化を広く認知させ、採用応募者の質向上に貢献
- ポイント: 商品の直接的な宣伝ではなく、企業の価値観・考え方を発信することで共感を獲得
メルカン(メルカリ):
- 目的: 採用・組織文化の発信
- 特徴: 社員インタビュー、組織の取り組み、エンジニアリングブログなど
- 成果: 採用候補者に「メルカリで働くイメージ」を具体的に伝えることに成功
- ポイント: 社員の顔が見えるコンテンツで、企業の透明性・信頼性を向上
(2) BtoC成功事例(北欧、暮らしの道具店等)
北欧、暮らしの道具店:
- 目的: ブランディング・EC売上向上
- 特徴: ライフスタイル提案型のコンテンツ、読み物としての価値が高い
- 成果: 月間1,600万アクセス、ECサイトへの強力な送客
- ポイント: 商品を直接売り込むのではなく、「暮らし方」を提案することでファンを獲得
(3) 目的別事例(ブランディング、採用、リード獲得)
ブランディング重視:
- 業界の専門家としてのポジション確立
- 調査レポート、トレンド分析、専門的な解説記事
- 例: 各種コンサルティング会社の知見共有メディア
採用重視:
- 企業文化、働き方、社員インタビュー
- 開発者向け技術ブログ
- 例: サイボウズ式、メルカン
リード獲得重視:
- 課題解決型コンテンツ、ハウツー記事
- ホワイトペーパー、ウェビナー案内
- 例: マーケティングツール提供企業のブログ
(4) 成功事例から学ぶ共通ポイント
成功しているオウンドメディアには以下の共通点があります:
- 明確な目的設定: ブランディング・採用・リード獲得など、目的が明確
- 一貫したコンテンツ戦略: ターゲット読者のニーズに応える一貫性のあるテーマ設定
- 長期的な継続: 最低でも半年〜1年の継続を前提とした運営
- 質の高いコンテンツ: 読者にとって本当に価値のある情報を提供
- 読者目線: 商品の売り込みではなく、読者の課題解決を優先
4. オウンドメディアの立ち上げと運用方法
成功するオウンドメディアを立ち上げるための具体的な手順を解説します。
(1) 目的設定と戦略設計(KPI・KGI設定)
まず、オウンドメディアの目的を明確にします。目的を明確にしないと方向性がブレて、効果が薄れます。
目的の例:
- ブランディング: 業界での認知度向上、専門家としてのポジション確立
- リード獲得: 月間○○件のリード獲得
- 採用: 応募者数○○名増加、採用候補者の質向上
KGI(最終目標)の設定例:
- 1年後に月間リード獲得数50件
- 採用応募者数を前年比150%に
- ブランド認知度を業界内で上位3社に
KPI(中間指標)の設定例:
- 月間PV数: ○○万PV
- 月間記事公開数: ○○本
- 平均滞在時間: ○分以上
- コンバージョン率: ○%
(2) ターゲット設定とコンテンツ戦略
ターゲット読者を具体的に設定し、そのニーズに応えるコンテンツ戦略を立てます。
ターゲット設定(ペルソナ)の例:
- 役職: マーケティング担当者、経営企画、人事責任者など
- 企業規模: 従業員数50〜500名のB2B企業
- 課題: 新規リード獲得に悩んでいる、採用がうまくいかない
- 情報収集方法: Google検索、業界メディア、SNS
コンテンツ戦略の立て方:
- ターゲットの課題・疑問をリストアップ
- キーワード調査で検索ニーズを把握
- 競合メディアの分析
- コンテンツカレンダーの作成(3ヶ月〜6ヶ月先まで)
- 公開頻度の設定(週1本、週2本など)
(3) 運用体制の構築(社内・外注のバランス)
長期的に継続できる運用体制を構築することが重要です。
社内リソース:
- 編集長・責任者(1名): 戦略立案、進捗管理
- ライター(1〜3名): 記事執筆、取材
- デザイナー(0.5〜1名): アイキャッチ画像、図解作成
- エンジニア(0.5名): サイト運営、技術サポート
外注活用のポイント:
- ライティング外注: 専門性の高い記事、大量執筆が必要な場合
- SEOコンサル: キーワード戦略、技術的なSEO対策
- デザイン外注: サイトデザイン、大規模リニューアル時
運用コストの目安:
- 小規模運営(月2〜4本): 月額10〜30万円
- 中規模運営(月8〜12本): 月額50〜100万円
- 大規模運営(月20本以上): 月額100万円以上
※外注の割合、記事の専門性により変動します。最新の料金は制作会社に確認してください。
(4) 長期的視点での運営(最低半年〜1年)
オウンドメディアの成果は半年〜1年かかることが一般的です。短期的な成果を求める場合には向いていません。
立ち上げ〜3ヶ月:
- 記事公開ペースの確立
- 初期コンテンツの蓄積(20〜30本)
- アクセス解析の設定・分析開始
- 効果はまだ限定的
3〜6ヶ月:
- 検索エンジンでの評価が徐々に向上
- 一部の記事で上位表示開始
- PV数が徐々に増加
- 改善サイクルの確立
6ヶ月〜1年:
- 安定したアクセス数の獲得
- リード獲得・問い合わせの増加
- コンテンツ資産が蓄積され、相乗効果が発生
- ROI(投資対効果)が見え始める
途中で挫折すると、それまでの投資が無駄になるため、最低でも1年の継続を前提に計画を立てることが推奨されます。
5. 企業オウンドメディアの最新トレンド(2024年)
2024年のオウンドメディアは、コンテンツ形式の多様化が進んでいます。
(1) リッチメディア化(動画・音声の活用)
2024年、動画・音声などのリッチメディア化が加速しています。テキストのみのコンテンツから、視覚的・聴覚的に訴える多様な形式へと進化しています。
リッチメディアの活用例:
- 解説動画(YouTubeと連携)
- ポッドキャスト(音声コンテンツ)
- インフォグラフィック(視覚的なデータ表現)
- ウェビナーのアーカイブ配信
- インタラクティブなコンテンツ(診断ツール、計算ツール等)
リッチメディア化のメリット:
- 理解しやすさの向上(複雑な内容を視覚的に説明)
- 滞在時間の延長
- SNSでのシェアされやすさ向上
- 幅広い読者層へのリーチ
(2) 採用オウンドメディアの増加
人材獲得競争が激化する中、採用を主目的としたオウンドメディアが増加しています。企業文化、働き方、社員の声を発信することで、「この会社で働きたい」と思わせるコンテンツが注目されています。
採用オウンドメディアのコンテンツ例:
- 社員インタビュー・1日の仕事の流れ
- 開発者ブログ・技術的な取り組み
- 社内イベント・文化の紹介
- キャリアパス・成長機会の提示
- 福利厚生・働き方制度の詳細
(3) コンテンツマーケティング・グランプリ2024
日本SPセンターが主催する「コンテンツマーケティング・グランプリ2024」が開催され、優れたオウンドメディアが表彰されました。受賞メディアの共通点として、以下が挙げられます:
- 読者目線の徹底(商品の売り込みではなく、課題解決を優先)
- 独自性のあるコンテンツ(他社では得られない情報・視点)
- 継続的な運営(長期的な視点での取り組み)
- データに基づく改善(アクセス解析を活用したPDCA)
6. まとめ:自社に合ったオウンドメディア運営のポイント
企業オウンドメディアは、長期的な集客基盤とブランド構築を支える重要な資産です。成功には、明確な目的設定、ターゲットに応じたコンテンツ戦略、そして長期的な継続が欠かせません。
オウンドメディア成功のポイント:
- 目的を明確にする(ブランディング・リード獲得・採用など)
- ターゲット読者のニーズを深く理解する
- 最低でも半年〜1年の継続を前提に計画する
- 社内リソースと外注のバランスを考慮した運用体制を構築する
- 成功事例を参考にしつつ、自社に合った運営方法を見つける
次のアクション:
- 自社のオウンドメディア運営の目的を明確にする
- ターゲット読者(ペルソナ)を具体的に設定する
- 成功事例を3〜5社調査し、参考になるポイントを抽出する
- 運用体制と予算を試算する
- 経営層に提案し、長期的な視点での承認を得る
自社の強みを活かしたオウンドメディアで、長期的な成長を実現しましょう。
※この記事は2025年11月時点の情報です。最新の事例や統計データは各社公式サイトをご確認ください。
