なぜ今、経営幹部育成に取り組むべきなのか
多くの人が見落としがちですが、経営幹部育成は、候補者の選定基準と評価軸を明確にし、管理職育成とは異なる「経営視点」の習得プロセスを設計することで、自社に適した幹部人材を計画的に輩出できます。
事業成長に伴い、経営幹部の不足を感じている企業は少なくありません。企業向け研修サービス市場は2024年度5,858億円(前年比+4.6%)、2025年度予測では6,130億円と成長を続けており、人材育成への投資意欲は高まっています。
しかし、次世代リーダー育成に取り組む企業は全体で64%である一方、中堅企業(301-1,000名)で52%、中小企業(300名以下)では35%と、企業規模による格差が大きいのが現状です。特に成長企業にとって、経営幹部の計画的な育成は喫緊の課題といえます。
人的資本経営とは、従業員を「資本」として捉え、人材への投資を企業価値向上につなげる経営手法です。2022年度からの人的資本開示義務化を背景に、経営幹部候補の育成計画であるサクセッションプランへの関心が高まっています。サクセッションプランとは、経営幹部候補を計画的に選定・育成し、次期リーダーへの円滑な引継ぎを行う後継者計画を指します。
この記事で分かること
- 経営幹部に求められる役割と管理職との違い
- 経営幹部候補の選定基準とチェックリスト
- 育成プロセスの設計方法とフロー
- 育成効果の評価・KPI設計の考え方
経営幹部に求められる役割と管理職との違い
経営幹部と管理職では、求められる視点と責任範囲が本質的に異なります。次世代リーダー育成の対象役職は課長クラス59%、部長クラス50%、係長クラス43%と、現状では中間管理職中心の育成が行われています。しかし、管理職育成の延長線上で経営幹部を育成しようとしても、実践力のある経営幹部は育ちません。これはよくある失敗パターンです。
人材最適化評価の平均は2.54/5点と低い水準にあり、管理職中心の育成が業績向上に寄与する一方で、新価値創造においては経営幹部育成の不足が課題として指摘されています。
管理職の役割:部門最適と部下育成
管理職の主な役割は、担当部門の目標達成と部下の育成です。OJT(On the Job Training) とは、実際の業務を通じて上司や先輩から指導を受ける現場教育を指します。管理職は日常業務の遂行とOJTを通じた部下育成に責任を持ちます。
Off-JT(Off the Job Training) とは、職場を離れて行う研修や勉強会などの教育訓練です。管理職全体の任用時マネジメント研修受講率は76.0%ですが、従業員100名以下の企業では37.1%に低下し、約2倍の格差があるという調査結果があります(ただしHR関連メディアの独自アンケートで、回答バイアスの可能性があります)。
経営幹部の役割:全社最適と経営視点
経営幹部には、部門を超えた全社最適の視点と経営判断力が求められます。具体的には以下のような役割があります。
- 中長期的な経営戦略の立案と実行
- 複数事業・部門を横断した意思決定
- 経営リスクの把握と対応
- 次世代経営層の育成
- ステークホルダーとの関係構築
管理職が「部門の成果最大化」を担うのに対し、経営幹部は「企業全体の持続的成長」に責任を持ちます。この視点の違いを理解することが、経営幹部育成の出発点となります。
経営幹部候補の選定基準を明確にする
経営幹部候補の選定では、現在の実績だけでなく、将来の経営視点を持てるかどうかのポテンシャルを評価することが重要です。管理職の効果的な不安事項は「人材育成」で約7割を占め、約9割が支援不足を実感しているという調査結果があります。選定基準を明確にすることで、組織的な育成体制の構築につなげることができます。
【チェックリスト】経営幹部候補選定チェックリスト
- 担当業務で継続的に高い成果を出している
- 部門を超えた視点で課題を捉えられる
- 経営数値(売上・利益・キャッシュフロー等)への関心がある
- 不確実な状況でも意思決定を先送りしない
- 自部門だけでなく他部門の成功にも関心を持つ
- 変化を恐れず、新しい取り組みを推進できる
- メンバーの成長を支援し、後継者を育てている
- 社外のステークホルダーと良好な関係を構築できる
- 経営者や上位層の意思決定プロセスに関心がある
- 自社の経営課題を自分事として捉えている
- 長期的な視点で事業の将来を考えられる
- 失敗を恐れず、チャレンジングな目標を設定できる
- 多様な意見を聞き、統合して判断できる
- 組織の価値観や文化を体現している
- 学習意欲が高く、自己研鑽を継続している
スキル・経験だけでなく「経営視点」を評価する
経営幹部候補の選定では、過去の実績に加えて以下の観点でポテンシャルを評価することが効果的です。
- 戦略的思考力: 短期的な成果だけでなく、中長期的な視点で物事を考えられるか
- 意思決定力: 不確実な状況でも、限られた情報から判断を下せるか
- 変革推進力: 現状維持ではなく、必要な変化を自ら起こせるか
- 人材育成力: 自分の後継者や次世代リーダーを育てているか
経営幹部育成プロセスの設計方法
経営幹部育成は、座学だけでなく実践的な経験の付与が不可欠です。リスキリングとは、新しい職務や事業環境に適応するために、従業員が新たなスキルを習得することを指します。経営幹部候補には、現在の役割を超えた経験を通じて経営視点を身につける機会が必要です。
【フロー図】経営幹部育成プロセスフロー
flowchart TD
A[候補者選定] --> B[育成計画策定]
B --> C[基礎研修・Off-JT]
C --> D[経営者との対話]
D --> E[経営会議への参加]
E --> F[戦略プロジェクト担当]
F --> G[事業責任者経験]
G --> H[360度評価・振り返り]
H --> I{評価・フィードバック}
I -->|継続育成| D
I -->|登用判断| J[経営幹部登用]
経営者との対話と経営会議への参加
次世代リーダー育成で成果を上げている企業の多くは、「現役経営者との対話」を選抜研修に導入しています。経営者の思考プロセスや意思決定の背景を直接学ぶ機会は、座学では得られない実践的な学びをもたらします。
経営会議への陪席や報告機会の付与も効果的です。経営判断がどのような情報と議論を経て行われるかを体感することで、経営視点の習得が進みます。
外部研修と自社経営課題の紐付け
外部研修だけに頼って自社の経営課題と紐付けないまま育成を進めると、実践力のある経営幹部は育ちません。これもよくある失敗パターンです。外部研修で学んだフレームワークや知識を、自社の経営課題に適用するアクションラーニングを組み合わせることが効果的です。
具体的には以下のような取り組みが考えられます。
- 自社の中期経営計画の策定プロジェクトへの参画
- 新規事業の企画・推進担当としての経験
- 経営課題をテーマにした提言・報告の機会
- 他部門・他事業のマネジメント経験
経営幹部育成の評価・KPI設計
経営幹部育成の効果測定は、定量・定性の両面から行うことが重要です。人材最適化評価の平均が2.54/5点と低い水準にあることは、多くの企業で育成効果の測定と改善が課題であることを示しています。
定量評価と定性評価の組み合わせ
単一の指標だけで経営幹部候補を評価することは避けるべきです。以下のような複合的な評価設計が効果的です。
定量評価の例
- 担当事業・プロジェクトのKPI達成度
- 部門収益への貢献度
- 育成したメンバーの成長度合い
定性評価の例
- 360度評価(上司・同僚・部下からのフィードバック)
- 経営会議での発言頻度と質
- 戦略的思考力・意思決定力の観察評価
- 経営者からの直接評価
評価結果は本人へのフィードバックと次の育成計画への反映に活用します。育成は一度で完了するものではなく、継続的なサイクルとして運用することが重要です。
まとめ:自社に合った経営幹部育成を計画的に進める
本記事では、経営幹部育成の進め方について、候補選定から育成プロセス設計、評価・KPI設計までを解説しました。
管理職の効果的な不安事項は「人材育成」で約7割を占め、約9割が支援不足を実感しているという調査結果は、人材育成を管理職任せにせず、会社としての支援体制を構築することの重要性を示しています。また、次世代リーダー育成に取り組む中小企業が35%にとどまる現状は、早期から計画的な育成に着手する企業に競争優位があることを意味します。
重要なポイントを整理します。
- 経営幹部育成は管理職育成の延長ではなく、「経営視点」の習得を目的とした別の取り組みとして設計する
- 候補者の選定基準を明確にし、実績だけでなくポテンシャルも評価する
- 外部研修と自社経営課題を紐付け、実践的な経験を付与する
- 定量・定性の両面から評価し、継続的な育成サイクルを運用する
経営幹部育成は、候補者の選定基準と評価軸を明確にし、管理職育成とは異なる「経営視点」の習得プロセスを設計することで、自社に適した幹部人材を計画的に輩出できます。本記事のチェックリストとフローを活用し、自社に合った経営幹部育成計画の第一歩を踏み出していただければ幸いです。
