コンテンツマーケティングにおけるターゲット設定の重要性
B2Bデジタルプロダクト企業のマーケティング担当者の多くが、コンテンツマーケティングを始めたものの、思うような効果が出ないという課題を抱えています。「誰に向けて発信すればいいのか分からない」「作ったコンテンツが誰にも読まれない」といった悩みは少なくありません。
こうした課題の多くは、ターゲット設定が不十分なことに起因しています。ターゲット設定は、いわば「手紙の宛先」に相当するものです。宛先が不明確な手紙は誰にも届かないように、ターゲットが曖昧なコンテンツは誰の心にも響きません。
この記事では、コンテンツマーケティングにおけるターゲット設定の基本から、ペルソナ設計の具体的なステップ、BtoBならではの実践ポイントまでを解説します。
この記事のポイント:
- ターゲット設定を間違えるとマーケティング投資が無駄になる
- ターゲット(抽象的な顧客層)とペルソナ(具体的な人物像)は使い分けが重要
- BtoBは企業属性・意思決定プロセスも含めて設定する必要がある
- 4段階のターゲット分類(非認知層・潜在層・顕在層・顧客層)で施策を整理
- ペルソナは一度作って終わりではなく、定期的な見直しと改善が必要
(1) ターゲット設定を間違えるとマーケティング投資が無駄になる
コンテンツマーケティングは、制作・配信・運用に相応のコストがかかります。記事やホワイトペーパー、動画などのコンテンツ制作には時間と人的リソースが必要ですし、配信プラットフォームの利用料や広告費も発生します。
ターゲット設定が不適切だと、これらの投資が回収できないリスクがあります。例えば、大企業向けの高価格帯サービスを中小企業に訴求しても、予算の制約から成約には至りません。逆に、中小企業向けの低価格サービスを大企業に提案しても、機能不足や信頼性の懸念から検討対象外となります。
日本のコンテンツ市場は約12兆5,833億円の規模があり、そのうちコンテンツマーケティング関連市場は約1兆円規模と推計されています(総務省「令和6年版 情報通信白書」)。市場が大きいからこそ、自社にとって最適なターゲットを絞り込み、投資効率を高めることが重要です。
(2) BtoBとBtoCでターゲット設定はどう違うか
BtoBとBtoCでは、ターゲット設定のアプローチが大きく異なります。
BtoCの特徴:
- 個人の嗜好・ライフスタイルが購買の決め手
- 購買決定は基本的に個人で完結
- 感情的な要素が購買に影響しやすい
BtoBの特徴:
- 企業属性(業種・規模・売上)が重要な判断基準
- 購買決定に複数人が関与(情報収集者≠意思決定者)
- 稟議プロセス・予算承認フローが存在
- 合理的な判断基準(ROI・導入効果)が重視される
BtoBでは、「誰が」だけでなく「どの企業の、どのポジションの人が、どのようなプロセスで意思決定するか」まで考慮する必要があります。このため、ターゲット設定もBtoCより複雑になります。
ターゲットとペルソナの基礎知識
ターゲット設定を進める前に、「ターゲット」と「ペルソナ」の違いを理解しておくことが重要です。
(1) ターゲットとは:手紙の宛先に相当する顧客層
ターゲットとは、自社のコンテンツを届けたい顧客層を指します。一般的には、以下のような属性情報で定義されます。
BtoBターゲットの例:
- 業種:製造業、IT・ソフトウェア、金融など
- 企業規模:従業員数、売上規模
- 部署・役職:マーケティング部門、営業部門、経営層
- 課題:リード獲得、業務効率化、コスト削減
ターゲットは抽象的な顧客層であり、「30代男性・製造業・マーケティング担当」のような大まかな括りで設定されます。
(2) ペルソナとは:具体的な人物像まで落とし込んだターゲット
ペルソナは、ターゲットをさらに具体化した架空の人物像です。名前・年齢・職業・行動パターン・悩み・情報収集方法まで詳細に設定します。
ペルソナの例:
- 名前:山田太郎
- 年齢:35歳
- 勤務先:従業員200名の製造業(自動車部品メーカー)
- 役職:マーケティング部 課長
- 家族構成:既婚、子ども2人
- 悩み:Webからのリード獲得が伸び悩んでいる。展示会頼みの営業スタイルから脱却したい
- 情報収集:GoogleやYouTubeで検索、業界メディアを定期購読、LinkedInでトレンド把握
- 意思決定:部長承認が必要、年間予算は500万円
ペルソナを設定することで、コンテンツ制作時に「どんな悩みを抱えた、どんな行動をする人に届けるのか」が明確になり、より刺さるメッセージが作れます。
(3) ターゲットとペルソナの違い
ターゲットとペルソナの最大の違いは、抽象度の違いです。
| 項目 | ターゲット | ペルソナ |
|---|---|---|
| 具体性 | 抽象的な顧客層 | 具体的な人物像 |
| 例 | 30代男性・製造業・マーケティング担当 | 山田太郎さん・35歳・マーケ部課長・子ども2人 |
| 用途 | 市場セグメント全体の把握 | コンテンツ制作時の具体的イメージ |
ターゲットで市場全体を俯瞰し、ペルソナでコンテンツ制作時の解像度を上げる、という使い分けが効果的です。
コンテンツマーケティングのターゲット設定方法
では、具体的にどのようにターゲットを設定すれば良いのでしょうか。ここでは3つの手法を紹介します。
(1) 4段階のターゲット分類(非認知層・潜在層・顕在層・顧客層)
ターゲットを購買段階で分類すると、施策の優先順位が明確になります。コンテンツマーケティングでは、以下の4段階に分けるのが一般的です。
非認知層(課題に気づいていない):
- 自社の課題を認識していない層
- 施策例:業界トレンド記事、調査レポート、啓蒙コンテンツ
- 目的:課題認識を促し、潜在層へ引き上げる
潜在層(課題は認識しているが、解決策を探していない):
- 課題はあるが、優先順位が低い、または解決策を知らない
- 施策例:課題解決の具体的手法、ノウハウ記事、比較コンテンツ
- 目的:解決策の存在を知らせ、顕在層へ引き上げる
顕在層(解決策を探している):
- 具体的な解決策・サービスを比較検討中
- 施策例:サービス比較記事、導入事例、無料トライアル案内
- 目的:自社サービスを選択肢に入れてもらう
顧客層(既に利用中):
- 既存顧客、リピーター
- 施策例:活用tips、アップデート情報、コミュニティ
- 目的:継続利用・アップセル・クロスセル
この4段階に応じてコンテンツを用意することで、各層に効果的にアプローチできます(パスカル「コンテンツマーケティングの目標設定(KPI)は4段階に分けよう!」)。
(2) 3C分析を活用した客観的なターゲティング
3C分析(顧客・競合・自社)を活用すると、客観的なデータに基づいたターゲット設定ができます。
Customer(顧客):
- 市場規模、成長性
- 顧客の課題、ニーズ
- 購買行動、意思決定プロセス
Competitor(競合):
- 競合が狙っているターゲット層
- 競合の強み・弱み
- 競合のコンテンツ戦略
Company(自社):
- 自社の強み、独自性
- 既存顧客の属性
- リソース(予算、人員、ノウハウ)
3C分析により、「競合が手薄なセグメント」や「自社の強みが活きるターゲット」が見えてきます。個人的な思い込みや偏見ではなく、客観的なデータに基づいて判断することが重要です。
(3) 既存顧客ヒアリングからリアルなターゲット像を構築
既存顧客へのヒアリングは、最も確実なターゲット設定の手法です。実際に購入した顧客から、以下の点を聞き出します。
ヒアリング項目:
- なぜ自社サービスを選んだのか(選定理由・決め手)
- 他にどのサービスと比較したか
- 導入前に抱えていた課題
- 誰が意思決定に関与したか(稟議プロセス)
- どこで情報収集したか(検索、SNS、業界メディア等)
これらの情報から、「実際に購入してくれる顧客像」が明確になります。仮説ではなく、実データに基づいたターゲット設定ができるため、精度が高まります。
ペルソナ設計の具体的ステップ
ペルソナ設計は、以下の4ステップで進めるのが一般的です(THE MOLTS「ペルソナマーケティングとは|効果的な設定手順と活用戦略」)。
(1) ステップ1:ターゲット明確化
まず、大まかなターゲット層を定義します。前述の4段階分類や3C分析を活用して、「どの層に、どのようなコンテンツを届けるか」を決めます。
例:
- 対象:製造業・従業員100〜500名・マーケティング部門
- 課題:Webからのリード獲得が不足、展示会頼みから脱却したい
- 目的:MAツール導入を検討してもらう
(2) ステップ2:情報収集
ターゲット層に関する情報を集めます。
情報収集の方法:
- 既存顧客へのヒアリング(最も重要)
- 営業担当者からの情報共有
- アクセス解析(どんなキーワードで流入しているか)
- アンケート調査
- 業界レポート、統計データ
特に、既存顧客の生の声は貴重です。選定理由・導入の決め手・稟議プロセスなどをヒアリングして、リアルなペルソナ像を構築します。
(3) ステップ3:ペルソナ作成
収集した情報をもとに、具体的なペルソナを作成します。
ペルソナに含める項目:
- 基本情報:名前、年齢、性別、家族構成
- 勤務先情報:業種、企業規模、部署、役職
- 課題・悩み:抱えている問題、解決したいこと
- 行動パターン:情報収集方法、意思決定プロセス
- 価値観:何を重視するか(コスト、品質、スピード等)
ペルソナは複数作成しても構いません。メインターゲットとサブターゲットでそれぞれペルソナを設定すると、施策の幅が広がります。
(4) ステップ4:運用・改善
ペルソナは一度作って終わりではありません。市場環境や顧客ニーズは変化するため、定期的な見直しが必要です。
見直しのタイミング:
- 最低でも年1回は見直す
- 新商品・新サービスのリリース時
- コンテンツの反応が悪くなったとき
- 市場環境が大きく変化したとき(法改正、競合参入等)
ペルソナは仮説であり、実データでの検証と改善サイクルが不可欠です。アクセス解析やコンバージョン率を見ながら、「想定通りのターゲットが反応しているか」を確認し、ズレがあれば修正します。
BtoBターゲット設定の実践ポイント
BtoBならではのターゲット設定のポイントを解説します。
(1) 企業属性(業種・規模・意思決定プロセス)の考慮
BtoBでは、個人の属性だけでなく、企業属性も重要です。
企業属性の例:
- 業種:製造業、IT・ソフトウェア、金融、小売など
- 企業規模:従業員数、売上規模
- 地域:国内・海外、都市部・地方
- 成長段階:スタートアップ、成長期、成熟期
加えて、意思決定プロセスも考慮が必要です。BtoBでは、情報収集者と意思決定者が異なることが多く、購買決定には複数人が関与します(DMU: Decision Making Unit)。
意思決定プロセスの例:
- 情報収集者:マーケティング担当者(課長クラス)
- 意思決定者:マーケティング部長、経営層
- 稟議プロセス:部長承認→役員承認(予算100万円以上の場合)
コンテンツは情報収集者向けに作り、稟議を通すための資料(導入効果・ROI試算)も用意するのが効果的です。
(2) 6Rフレームワークによる判断基準
BtoBのターゲット設定では、「6R」のフレームワークが有効です(プログレス アンド パートナーズ「BtoBのターゲティングに必要な4つの視点と6つの判断基準」)。
6Rの判断基準:
- Realistic Scale(市場規模): 十分な市場規模があるか
- Rate of Growth(成長性): 今後成長が見込まれるか
- Rank/Ripple Effect(優先順位・波及効果): 優先的に狙うべきか、他セグメントへの波及があるか
- Reach(到達可能性): 自社のリソースで到達できるか
- Rival(競合): 競合の状況はどうか、参入余地はあるか
- Response(測定可能性): 効果測定ができるか
この6つの基準でターゲットを評価すると、「魅力的に見えるが実際には参入困難なセグメント」を避け、「自社にとって最適なターゲット」を見極められます。
(3) 2024年のトレンド:AIパーソナライズとファーストパーティデータ活用
2024年のコンテンツマーケティングでは、AIを活用した購買履歴・Web行動分析により、より正確なターゲット設定とパーソナライズが可能になっています(amana insights「2024年も後半戦!統計データから読み解く6つのコンテンツマーケティングトレンド」)。
同時に、サードパーティクッキーの廃止に伴い、ファーストパーティデータ(自社で直接収集した顧客データ)の獲得・活用が重要性を増しています。自社サイトでの会員登録、ウェビナー参加、ホワイトペーパーダウンロードなどを通じて、顧客の行動データを蓄積し、ターゲティング精度を高める取り組みが広がっています。
(4) よくある失敗と回避方法
BtoBターゲット設定でよくある失敗と、その回避方法を紹介します。
失敗1:個人的な思い込みや偏見によるバイアス → 回避方法:客観的なデータ(既存顧客分析、統計データ)に基づいて判断する
失敗2:数年前に作ったペルソナを使い続ける → 回避方法:最低でも年1回は見直し、市場環境の変化に対応する
失敗3:ターゲットを広げすぎる → 回避方法:まずはメインターゲットに集中し、効果が出てからサブターゲットを追加する
「誰にでも刺さる」コンテンツは、結局「誰にも刺さらない」ものになります。ターゲットを絞り込み、その層に深く刺さるコンテンツを作ることが、コンテンツマーケティング成功の鍵です。
まとめ:効果的なターゲット設定のために
コンテンツマーケティングにおけるターゲット設定は、「手紙の宛先」を決めるような重要なプロセスです。ターゲットが曖昧だと、どれだけ良質なコンテンツを作っても、届けたい人に届きません。
BtoBの場合は、個人属性だけでなく企業属性・意思決定プロセスも考慮する必要があります。4段階のターゲット分類(非認知層・潜在層・顕在層・顧客層)で施策を整理し、3C分析や既存顧客ヒアリングで客観的にターゲットを設定しましょう。
ペルソナは一度作って終わりではなく、定期的な見直しと改善が必要です。市場環境や顧客ニーズの変化に合わせて、ペルソナをアップデートし、コンテンツの精度を高めていきましょう。
次のアクション:
- 既存顧客へのヒアリングを実施し、選定理由・決め手を聞き出す
- 4段階のターゲット分類で、各層向けのコンテンツを整理する
- 3C分析で自社の強みが活きるターゲットを見極める
- ペルソナを具体的に作成し、社内で共有する
- 最低でも年1回はペルソナを見直し、施策の精度を保つ
効果的なターゲット設定で、コンテンツマーケティングの成果を最大化しましょう。
